春

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 僕はフォークにマカロニを突きさした。  空洞のあるとがったマカロニは、はじめのうちはフォークをいやがってほんの少しまがったが、やがて圧力に負けて、すっとその形をフォークに任せた。ソースがよく絡んでいた。すこしマカロニのゆでが固いと思った。  彼女の持つフォークにはミートソース・スパゲティが巻きついていた。彼女が口を開けると、フォークは浮くように持ち上がった。ちらりと見えた小指のつめの先は、きれいな弧が浮きだっている。三日月のかたちだ。端を繋げたらまん丸だろう。僕はぼんやりと隣の家の赤ちゃんのまん丸な頭を思い出した。 「子どもって、好き?」  僕は訊いた。  彼女のちょっと大きくなった目は、僕を見ていた。唐突な僕の質問に驚いたのか、もしくは以前、まったく同じ質問をしたのだろうか。だとしたらすまないなあとは思ったが、今さら謝るのもわざとらしいので黙っていた。彼女はフォークを置いて、スパゲティを飲み込んだ。どうやら話してくれるらしい。 「好きね。私も昔は子どもだったんだもの、嫌いになったことはないわ。どうして?」 「僕の隣の一家に生まれたての赤ちゃんがいて。女の子なんだけど、耳のかたちが旦那さんに似てるんだ。やっぱり家族っていいなあと思ってさ」  後者の考えではなかったのと、好き、という言葉にホッとした。  子どもを嫌う人は少なくはないが、その人達は自分が子どもだったことを忘れてしまっていることがある。僕は最近になってそれに気が付いた。自分が子どもだった経験があることを意識したときに、「まあ嫌いじゃない」という地位だった子どもを「好きだ」と言えるようになったのだ。  彼女の子どもに対する感覚に安心した。そして僕はまたマカロニを食べはじめた。
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