ふうちゃんとおねえちゃん

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 それからずっと、長い間があった。 「ふうちゃん、ごめんね」 彼女はいきなり僕にしがみついた。僕の胸には彼女の耳がぺたりと付き、柔らかな髪が顎に当たりくすぐったい。指先がシャツの腕と脇をつかみ、腹部には彼女の胸の感触がある。足は投げ出されている。心臓の鼓動は感じない。そして僕には決して目を合わさずに言った。 「ふうちゃんにはずっとつらい思いをさせてきたよね。小さい頃から勉強頑張ってて、学生時代は勉強ばっかりで部活もできなくて。私みたいなお姉ちゃんだったから。 みんなの期待、ふうちゃんだけにずっと背負わせてて、ごめんね。これだけは言いたかったの……本当は、もっと色んなこと謝りたいし、もっと色んなこと喋りたかったんだけど」  僕は、はじめて彼女の弱いところを見たような気がした。尻切れてしまった彼女の言葉を繋ぐように、何かを言わなくちゃいけない気がした。彼女の右手が僕の肩をつかみ、左手は僕の背中に回された。僕は彼女の背中に腕を回した。 「いままでずっと、全然つらくなんてなかったよ。何もかも、お姉ちゃんのせいだなんて思ったこともなかった…お姉ちゃん、死んでも、生きてても、ずっときょうだいだよ」 「うん」 彼女は涙を拭ったようだ。肩にかかる指の感触が消えて鼻をすする音がした。 「私たちはずっと、仲良しのきょうだいだよ」 彼女がそう言うと僕は彼女の体が溶けるように、または蒸発するように消えていくのを感じた。僕は精一杯目を凝らし、なくなっていく彼女を抱きしめた。彼女の温もりや質感を忘れてしまわぬようにしっかりと。  消えそうな中で彼女は笑った。その瞬間を目に焼きつけて目をじっと瞑った。
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