ふうちゃんとおねえちゃん

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 しばらく経って蝉の鳴く声が耳に障った。目を開くと彼女はいなかった。玄関に脱いでいたサンダルも、持っていたバッグも、なにも無かった。あったのは量の減ったミルク入りコーヒーとそれの入ったグラスだけだった。  僕は自分のグラスの氷を捨てに行った。彼女の使ったグラスの外側にコーヒーの入っているところまで露が出来ていた。姉が死んで1年。まだ1年だ。1年前の彼女は僕にさよならも言えずに向こうへ行ってしまったことを思い出した。 「僕らはずっと、きょうだいだよ」 僕は呟いた。返事は無かった。もう彼女の声は聞こえない。姿も見えない。ぬくもりもない。けれど僕らは愛で――僕が母のお腹にいるころからの絆で――繋がっている。僕の無二の親友で、憎むべき人で、愛すべき家族で、唯一のきょうだいの姉ちゃん。いつか会える日まで。   fin.
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