教育

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「だが、今回ある事件により、監禁状態にあった君の力を借りたいと思ったんだ」  にこりともせず、男は淡々と語る。その口調からは反論させる隙すら与えないように感じられた。 「いや待て。何も省略せずに全てを話してくれ。言ってる意味が分からない」  この男の話はあまりにも省略しすぎだ。俺はまだ監禁されていた理由も事実も、そしてこれから起きることすら理解できないのだ。せめてここがどこで、何の施設なのか知りたい。 「何もかも分からん。何なんだ、このふざけたお芝居は? 何故俺を監禁した? 政府ってなんだ? お前らは何者だ? 何か目的があるのか?」  次々と頭に浮かんでくるクエスチョンマーク。無限のように感じられる。何も分からない。何も分からない。何も分からないことが、怖い。  無知でいることがこんなにも怖いなんて、知らなかった。何かを知らなければ、自らの身を守ることもできない。とにかく俺は恐ろしかったのだ、何も知らないということが。
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