教育

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「そして私も、父と同じように遺伝学者としての道を歩み始めた。初めて担当したプロジェクトが、『DNA解析プロジェクト』なんだよ」  誇らしげに男は話し続ける。 「そして君の血液解析データを発見し、更に人間のそれとは明らかに違うものだと判明したんだ。そして研究に研究を重ねた」  そこで男はようやくポケットからハンカチを取り出し、涙を拭いた。そのハンカチは真っ白く、スーツの黒とハンカチの白の色の対比が印象に残った。  だが、俺にはこの男がよく理解できない。この男は遺伝学者らしいが、だからといって俺を監禁する直接の理由にはならない。 「君の遺伝子の配列はいわば『奇跡』だったんだ。あの配列はまさに人類が追い求めていた奇跡がそこにあった」 「分かりやすく言え」  いくら恍惚とした表情で遺伝子の配列について語られても、遺伝学をかじってすらいない俺には何のことかさっぱり分からない。幼稚園児に数学の無限降下法について力説するようなものだ。  しかも、この男は俺の言うことが理解できていないのか『わかりやすく説明する』ということが出来ていない。
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