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「うちのお母さんがね……」
友人の座る方向に身を寄せ、声を潜めて切り出したのは飛翔高校二年の倉渕花枝(くらぶちはなえ)。
成績は中の上、容姿は普通。
少しくせのついた栗色の髪は、左右でふたつに結ばれている。
性格は穏やかで、どこか抜けているような感じ。
簡単に言ってしまえば、どこにでもいそうなごく普通の女子高生である。
「さっ、再婚!?」
春とはいえ、まだまだ寒さの残る5月中旬の朝。
今日も寒いねー、などと言葉が飛び交う教室で突然大声を上げたのは、花枝の声に耳を寄せていた親友、吾妻真希(あがつままき)だ。
「ま、真希ちゃん、声大きい!」
真希の発言に反応し、水を打ったように静まり返る教室。
授業開始時刻までにはまだ時間はあるものの、当然ちらほらとクラスメイトはいるわけで。
真希の声が大きいのはいつものことだと認識されてはいるが、いかんせん発した言葉が“再婚”の二文字。
何も知らないクラスメイト達は好奇心に目をギラギラさせたり、疑惑の目で二人を見たり……中には関わりたくないと視線を逸らす者もいた。
「あっ、ヤベ!悪い……」
ちなみに真希の母親は、数年前まで少し離れた地方で有名だった暴走族集団のトップである。
真希はその母親によって髪を外国人形のような金色に染められている為、なかなか目立っている。
この学校は金髪を禁止しているのだが、教師陣は例の母親と関わりたくないのかそこについて咎る事は無い。
明らかに花枝とはタイプの異なる真希だが、実は可愛いものや自分より小さいものが大好きであり、花枝はそれに当てはまったらしい。
「良かったじゃん!祐介サン絶対喜んでるよ」
「う……うん!ありがとう、真希ちゃん……」
「おま、ここで泣くなよ~!アタシまでウルっとくんじゃねーか!」
花枝は小学校5年のとき、病気で父である祐介(ゆうすけ)を亡くして以来ずっと母の亜紀(あき)と2人暮しをしている。
亜紀は花枝以上にショックを受けたが、母親であることを考え女手一つで懸命に育ててくれた。
そういったこともあり、花枝は今回のことを心の底から喜んだのだった。
「にしても、突然だよな~。詳しいことはまだ分かんねんだろ?」
「そうなんだよね……」
亜紀の再婚が決まったのは、一昨日のことである。
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