運命

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「ただいま。」 晴斗はドアを開け、玄関で靴を脱いだ。 鍵は開いていたから誰かいるはずなのに、部屋からは何の光もなく、一切何の音もしない。 晴斗は暗い部屋に入り、電気をつけた。 「母さん…?」 母は茫然として椅子に座り込んでいた。晴斗の様子に気付くと母は立ち上がった。 「あ、ハルト、お帰りなさい。 どうしたのよ?アンタ、びしょびしょじゃない。 ホラ早くシャワー浴びて来なさい… ああ、もうこんな時間だ…早く夕飯作んなきゃ… あ、そうだ、今日はハルトの大好きなハンバーグにしようっと。 それとも何か別のものがいいかしら? ねぇ、ハルト、聞いてる? 晩御飯何が良い? あらやだ、まだシャワー浴びてなかったの? ホラ、もう風邪引いたらどうすんのよ。」 「母さん!」 慌てて一気に喋り出す母の姿はまるで自分から逃げているかのように見えた。 「ああ、ええとごめんね。 母さん今からちょっと挽き肉買ってくるから…」 母は自分から、いや、自分の息子から逃げていた。 「母さん…。」 晴斗は出ていこうとする母の右腕を掴んだ。 母の目はやつれていた。 「オレ…大丈夫だから…。」 母も父から晴斗の病気のことを初めて聞いたのだろう。 気が動転してしまうのも無理はない。 オレ自身、どうしたらいいのかわからなかった。 でも、不思議なことに頭の中はとてもスッキリしていた。 「今日の晩御飯はハンバーグよりエビフライがいいなぁ。」
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