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「晴斗、今のありのままの気持ちを父さんに話してごらん。」
優しい父の視線は昼間に余命宣告をしたときのものより力強く、暖かかった。
「父さんは今日、運命を変えることはできないって言っていたよね。」
「ああ。」
父は小さく頷いた。
「本当にそう思ってる?」
「ああ。」
父は窓を開けて空を見上げた。
「由香がお前を産んでくれたとき、そう確信した。」
晴斗は父の瞳を見つめた。
何も言葉が出なかった。
「ただなぁ、晴斗。
父さんはお前に“死を受け入れろ”って言いたかったんじゃないんだ。
それにオレだってそんな簡単に息子の死を受け入れられるような器用な人間じゃない。」
父は小さく息を整えて、こう言った。
「でもな、変えられない運命だからこそ、それときちんと向き合って欲しい。」
力強いその言葉は少しだけ震えていた。
「それと…」
父は何か続けようとしていたが、うつむいて話すのを止めてしまった。
「ゴメン。やっぱ続きはまた、な…。」
父はドアを開けて部屋から出て行った。
そしてその10秒後、男のすすり泣く音が聞こえてきた。
きっと父さんも辛かったんだろう。
さっきのセリフは彼自身が何よりも自分に言い聞かせた言葉なのかもしれない。
それでも、父 夏川哲也は偉大だと思った。
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