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彼女のことは知っていた。
いや、知らないヤツは居ないだろう。
それほどの有名人。
『女神』と呼ばれていることも、この学校では周知だ。
「…アレが噂の…立花恵(タチバナメグミ)か…」
ついフルネームで口に出てしまった。
先程、友人との会話に出てきたばかりだったから。
その場に立ち竦んでいた藤澤陸翔(フジサワリクト)は、気付かれないようにそっと近づいた。
震える指で、恵の前髪についた桜の花びらを手にする。
顔を覗き込み、彼女を眼に焼き付ける。
触れてはいけないだろうが、どうしても彼女の存在を確かめたい衝動に駆られた。
―が、運悪く昼休み明けの予鈴がなってしまう。
恵が眼を開ける前に、猛ダッシュでその場を離れた。
なぜ逃げてしまったかは、自分でもわからない。
胸の高鳴りがそうさせたのかもしれない。
そっと恵から死角になったところから様子を伺う。
恵は立ち上がり、辺りをキョロキョロ見て首を傾げていたが、そのまま校舎に向かって歩き出した。
胸の高鳴りを押さえ、その場にうずくまる。
「…ダッセー、俺なにやってんだ…」
恵の髪についていた花びらを手に、空を仰いだ。
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