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スッ、と恵の前に影ができる。
後ろの席の藤澤君が、恵の前に立っていた。
このクラスは成績優秀な者だけの特別Aクラスで、一年生の時から同じクラスだったが、彼はほとんど教室には来なかった。
ところがここ最近、急に出席するようになっていた。
真面目に来るようにはなったが、授業中は必ず寝ている。
授業を受けなくても、成績は優秀。
見た目も抜群のルックスで、資産家のご子息ということもあり、学校一モテるらしい。
興味のない恵からすれば、ただのクラスメートにすぎない。
そんな彼に前を塞がれ、不審に思うしかない。
「何?」
初めて恵から藤澤に話した言葉。
彼は身長180cm超えているらしく、かなり威圧感がある。
藤澤は、なぜか怒っているような表情で口を開いた。
「…おまえさ、レズってほんと?」
…何を言うかと思えば、かなりの直球な言葉。
教室にはまだ帰らず、聞き耳を立てている生徒達…
「…ストレートに聞かれたのは、初めてだわ」
…さて、困った。
一年生の頃は、未来とそういう仲だと口裏を合わせてもらい、男を遠避けていたが、二年生になって未来に告白した生徒から、「恵と未来の関係はそういったものではない」と暴露された。
それからというもの、恵がレズかどうか真相は解らなくとも、好きだと告白してくる人が増えてしまった。
…付き合う気がないので、すべて断る。
断る理由を噂通りだからと言えば、大低諦めてくれる。
「…で?答えを聞いて、貴方に何の得があるの?」
前が駄目なら後ろの扉から出ようと思い、藤澤に背をむけた。
―逃げるが勝ち、だ。
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