一.

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フワリ、と靡(ナビ)いた恵の髪に、皆はつい見とれてしまう。 藤澤も躊躇したが、思わず恵の腕を掴んでしまった。 一瞬、恵は掴まれた腕に力を入れてしまったが、何事もなかったかのように、静かに振り向いた。 誰の眼から見ても明らかに無表情だったが、それでも彼女は綺麗だ。 そんな恵の瞳に見つめられた藤澤は動けずにいる。 一歩だけ、藤澤に近づく。 彼女の綺麗な唇が開き、そっと囁いた。 「私に関わらないで」 周りの生徒には聞こえなかっただろう。 皆は顔を赤らめ、二人のいる風景をただ眺めているだけだった。 藤澤は言葉の意味より、初めて恵がこれほどの至近距離で、真っ直ぐに見つめてきたことに息が止まってしまう。 掴んでいた腕も、思わず力を緩めた。 彼女はスルリと腕を引き、踵を返してそのまま教室を出て行った。 正気に戻った藤澤は、恵を掴んでしまった手を、じっと見つめる。 (…初めて触った) 桜の木の下の、不確かな女神に初めて触れたことで、藤澤には欲望が生まれた。 (…絶対、手に入れてやる) 藤澤のそんな想いなど気にせず、恵は憂鬱ながらも呼び出された場所に向かった。
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