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「羽川さん……」
ついに見つかってしまった。
実際、自作の曲なんぞ聴かれたら発狂モノで、黒歴史化確定である。
せめてもの救いは、彼と羽川あかりが今はまだ仲が進展していなかったところであろうか。
彼はどんな批判中傷も覚悟した。
「いい歌ね。下手なアーティストより心に響くわ」
なんと、こともあろうか彼女の口から出たのは彼の予想とは真逆の言葉だった。
「歌って?」
彼の本心は羞恥の極みだったが、照れ隠しがひねくれたのか、続きを歌い出す。
「憧れが力さ
まっすぐ伝えたい気持ちがある
possible to recall it─
駆け抜けれるこの足がある
辛いリアルも燃料に変えて
忘れたのか 燃えていたお前を
風がせかす もっと燃えろと
I want to believe You
まだ終わらないだろ
風がなでる
俺の冷めた体を
変わりたい 進みたい
扉を超えたその先の夢へ」
急に、彼がギターを止める。
「どうしたの?」
あかりは自分の心を言葉にした。
嘘偽りのない目である。
「まだ続きができてないんだ」
少し恥ずかしい気持ちも合ったが、それ以上に彼が感じたのは悔しい気持ち。
ここには、自分と観客がいる。
しかし、自分は歌えない。
ああ、憧れのあの人ならどうしただろうか。
だが、またしても彼女は彼の期待を裏切る。
「そう。続き、楽しみにしてるわ」
彼女が教室から出るのを、呆然としながら見送る彼。
呆気にとられていた彼だが、彼にも何か胸でくすぶる何かがあった。
まだ歌いたい、まだ聞いてほしい。
初めて、彼は歌う本当の喜びを知った。
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