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紅い満月は、すっかり雲無き闇に呑まれていた。
闇の中、二人の剣士が駆け寄り、刀を重ね押し合った。
剣吾は、久しぶりに交わす誠道の剣に以前の様な力を感じてはいなかった。
「大村剣吾、それが御主の力の全てか。変わっておらんな」
誠道は剣吾が全力で掛かっていない事に気付いていなかった。
寧ろ誠道自身、己の力が鈍っている事に気が付いていない様であった。
二人の攻防の舞台は河原へと移った。
一見互角の様だが、誠道の息は絶え絶え、片や剣吾は呼吸一つ乱れていない。
誠道はここで漸くハッと気付いた。
――俺は無駄に老いたのか。――
月明りは少しずつ、闇の中から還ってきた。
一瞬の閃光が誠道の刀を弾いた。
誠道が迷い、惑った隙を剣吾は見逃さなかった。
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