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 スタジオ入りは土曜の13時。普通のサラリーマンなら休日のその時間帯にお仕事をさせてしまって悪いなぁといつも思うのだけれど、ディレクターの川田さんは最早すっかり慣れてるらしい。ケータイゲームの業界ってのは普通とは違う時間が流れているんだってことは、この頃だいぶ理解はしてきた、と思う。  渡された「脚本」は3枚の紙。メインストーリーの収録はもう終わっちゃってるから、今回は海辺でデートなんだそうだ。へえ。さいですか。 「……いつもの感じ?」 『いつもの感じでー』  ちなみにいつもの感じ、とは、このキャラクター──小牧翔太(15歳)においては、あれだ。  小悪魔弟系。 「……ふー」  普段の俺はこんな声滅多に出さない。あくまで仕事用。だから、教室で時々自分の声が女子のケータイから聞こえてくることがあったりするけど、まだバレたことがない。このゲームの時は、名前、芸名使ってるし。  少し高め。ちょっと鼻にかけて。 『じゃお願いしまぁす』  とヘッドフォンの向こうで川田さんの声。自分の頭の中で、切り替えるまでの時間は約3秒。  耳元で聞こえるエンジニアさんたちのカウントダウンが消えた後に、俺はスイッチを切り替えて『僕』になる。 「ちょっとやだなぁ」 「だってぇ、他の男にも見られてるのが」 「やっぱこんなカッコ見せるのは僕だけにして?」 「何処でって?」  0.5秒。 「……ねえ、今夜、泊まっていいよね?…まだ、夏休みなんだし」
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