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 言いながら思った。こらこらこら。やめろよ翔太。それマズいでしょう。日本の法律上。頭の中で二次元の翔太が茶髪を揺らしてぶーっと膨れた顔していたりする。ただの想像。  川田さんがガラスの向こうでにやけてる。擬音つけるとしたら、えへらー。そんな感じ。  元々、無名度から行けば確実に世界チャンピオンの俺が、ケータイ向け恋愛ゲーム「夕焼けキャンパス~カレとワタシのヒミツの放課後」に抜擢されちゃったのはこの人のせいだ。  川田さんなんて他人行儀な呼び方しているのは「職場」だからで、まあ一般的に言えば叔母。母の妹だ。未だ独身。で数々の乙女ゲ(女性向け恋愛ゲーム)を手がける敏腕ディレクターらしい。  元々、母の趣味で児童劇団なんかに放り込まれてしまっていた俺は、ラジオの仕事なんかで声系の仕事をすることはあった。あったのだが、まあ学生だし、拘束時間が限られてもいるし、あまりまとまった長期の仕事──たとえばアニメだったり、ラジオドラマだったり、そういう仕事の声は当然ながらかからないわけで。  その意味でもまあ、ちょうどよくはあったのだ。ケータイゲームという仕事は。  ブツ切れ細切れのセリフだけなので、収録している時は物語がさっぱり見えないのがちょっと違和感だったけど、終わった後に自分でも一通りやってみた。  自分のルートだけだけど。  学校とか、外歩いている時とかは当然出来ない。ちらっとケータイ覗き込まれるとかなりよろしくない。だから家で、宿題とかの狭間に年下男子高校生を篭絡する女子高生にならなきゃならなかった。  ……とはいえ、まあ、しょせんはケータイゲームなわけで。というか、やってみて思ったことは、ゲームですらないような気がするわけで。声つき小説だなこれ。という印象。  ようやく、自分の声がどういう風に使われているのかを把握した。把握してからは、「いつもの感じでー」が通じる程度にはコイツのことが分かったような気がしている。
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