妄想彼氏の中の人

1.

「他にどんなアニメとか出てるの?」
「えー調べたけど出てこなかったよ。wikiにも項目ないしー」
　そりゃないよ。というか作らないでくださいお願いします。あとwikiって略すのは間違いらしいよ。ウチの父はIT系エンジニアでそういうことを気にするもんだから覚えちゃったよ。
「事務所とかわかんないよねー」
「え、もしかして好みだったりする?」
「だってー、有名な人だとどーしても別のキャラとかぶるじゃん、ヒロムのはずなんだけどなんかキラに聞こえるとかー」
　きゃははー、と壮大に笑いが。へー。あの声の出し方はそうなのかぁ、と、共通イベントでしか聞いたことがない声を思い出してみる。キラとやらが何なのかは判らない。そもそも人なのかどうかすら。
　ちなみにヒロムってのは同じゲームに出てくる、主人公と同級生の男子。人気投票的には人気キャラ。
「その点、凪は翔太にしか聞こえなくていいよねー。街の中で別人として喋ったりするの聞いたりもないし」
　うわ呼び捨て。ちなみに芸名は叔母がつけた。生田凪(ナギ)。本名の面影は何処にもないから、俺と同一人物だというのは、名前からはまずバレようがない。
　しっかし、他の大御所さんは苗字またはフルネームに「さん」づけなのに、なんですかその扱いの差は。
　俺が気にしないフリして内心でいろいろグルグルしていると、委員長で友達の森崎が声かけてきた。
「いい加減移動しね?」
「……あ、次理科室か」
　忘れるところだった。ちなみに委員長の声で例の女子たちもやっと本業を思い出したらしい。ああ。一緒に移動するハメに。賑やかだなあ。
「……ったくあいつらうっせーよなぁ」
　うちのクラスの委員長は、ちょっぴり口が悪いのだ。「仕事中」はそうでもないけど。