妄想彼氏の中の人

1.

　森崎みたいに、何かあるとちょいちょい声をかけてくれるような「友達」が出来たのは高校に入ってからだったなぁ、なんてことをぼんやり思い出してた。
　中学の頃の俺は、仕事のせいもあって人づきあいが非常によろしくないやつだった。人づきあい度は中学の頃も高校になってからも実はそんなに変わってはいないけど、中学生は高校生よりいろんな意味で制約が多いし、やれることが少ないからみんなヒマだったと思う、まあ、いわゆるいじめのターゲットみたいになってた。
　とは言うものの、俺の学校の連中はみんなおしとやかな連中ばっかりだったから、肉体的に傷をつけられたり、持ち物に物理的な損害を与えられたり、そういう目に見える被害はほぼなかったけど。無視とか、微妙に地味な系統のやつ。
　俺の方も当時は別に気にしてなかった。というか、「仕事」が結構面白いなぁと思い始めていて、叔母に勧められるままにボイトレとかちょっと通ったりしてた。歌を歌うつもりはなかったから、純粋に喋る方のだけど。その頃にいろいろ教えてもらったことは今でも相当役に立ってる。喋りにも筋肉があるんだ。ちゃんと維持しないとすぐ回らなくなる気がする。