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「ち、ち、ち、近寄るなっ!」
「あっちへいけっ…そ、そばに来るなっ!」
突然入ってきた黒服の女は一人で騒いでいた。
「騒々しいヤツだな」
男は本を片手に女を見やる。
街外れの納屋の中。
雨宿りにと後から入って来たのは女の方だった。
女は薄地の黒のコートを羽織り、目深にフードを被り、髪の色や顔までわからなかった。
「………………アンタほんとに男なの?」
「ああ。これでも腕は立つ」
男は脇に剣を下げている。
見れば旅人を思わせるような服装。日雇いか、流れの剣士であろう。
「そういうことを言っているんぢゃない」
「じゃあなんだ?」
「……………………襲ったり…しないのか?」
「フ…はははは…」
男は思い切り吹き出し笑い声をあげた。
「なっ…何が可笑しい?」
「男はみんな狼か。確かにそういう輩もいるが、見ず知らずの女を抱くほど困ってはいない」
「…ホモか?」
「………君は娼婦か? 生憎持ち合わせがな…」
「違う!!」
「じゃオレもちが…」
「ホモだな?」
「………………………まぁいい」
それで女が静まるならばと男は諦めた。
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