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朦朧とした意識が暗闇の中に一つの光になって芽生える。
ガンガンと頭に鈍い痛みが響く。瞼は重い。まるで百キロの重りが乗っているようにも感じられる。
張は体が拒むにも関わらず、強靭な意志の力でそれを持ち上げた。
一筋の淡い橙色の光。それがが視界に飛び込む。柔らかい光。あの時、あの戦いでは有り得なかっただろうぬくもり。
「お…やっと目ぇ覚ましたか。」
ひょろながい体躯の一人の男が張の顔を覗き込んで笑っている。
「おい、張。お前、丸一日ぶっ倒れてたんだぜ?信じられっか?」
張が鉛のように重い体をゆっくりと起こす。全身の筋肉が鋭い悲鳴を上げ、張の表情にも痛みがよぎる。
「俺が、丸一日寝てたっ…て?」
やっとのことで上半身を寝床から起こした張は訪ねた。張の体のアチコチには治療の後が残されている。
「そうだよ。全くっ、世話する俺の身にもなれってんだ。
だいたい、ジャク先生と戦おうだなんてさ。お前、帰ってきてから変わったよな。」
「奇跡でもいいから、俺は可能性に、目標に、全てを捧げるんだ。アイツーーカズキが見せつけてくれたようにな。」
張は懐かしげに上を向く。あの旅は、あの戦いは、こんなんじゃなかった。そしせ、張の中では、昔には無かった「自信」が轟々とみなぎっていた。
角張った頬にランプ灯の柔らかい光が当たる。それでいて、鋭い瞳は熱を帯びる。
「はっはっは。なんなら早くジャク先生に勝っちまいな。
豪語する位なら他人に迷惑かけんなっての。」
男は高笑いして張の額にゴツンと拳を当てる。
張は苦笑いして頭をボリボリとかく。
「すまんなぁ。」
男は机の上のマグカップを右手に取り、張に手渡す。入れたての茶の爽やかな香りが辺りに広がる。
「んで、次の挑戦はいつなんだ?」
一変、張は真一文字に口を結び、考えた末、言葉にする。
「明日。明日で終わりにする。勝つ」
「その体で?」
「ああ。」
はぁー… 男は盛大なため息をついてから言った。
「とりあえず、お前の臭い体をどうにかしてこい。風呂は開いてっから。」
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