ハジマリ

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辺りは薄暗く、夜を感じさせ始めた。 ソラは祖父母の家を発った後に、徒歩で下宿先へと向かっていた。 夜なのに街は煌びやかで騒がしい。そんな感覚もいずれ慣れてくるのだろうか。 「ここか」 辿り着いたのは『パブリビオ荘』と銘打たれたアパート。 普通のボロアパートだ。 「大家さんの部屋は……」 一階、二階とあり、その内一階の最端が大家と思しき表札が掲げられた部屋だ。 思しき、というのは表札が手書きでかつ下手くそな字のためである。 コンコン、とノックをする。 シーンと沈黙が数秒あるいは十数秒続き、留守かと嘆息していると自転車のブレーキの音が響く。 「タラッタッタ……ん? あれ、もしかして今日新しく越してきた人?」 一人の少年―――緑凪高校生のようだ―――がソラに気づき、大股で寄ってくる。 「あぁ。大家サンは留守かな?」 「あー、多分ね。つか居ないんじゃないかな?」 軽いノリで放たれた問題発言に目を丸くしていると、少年はアパート横の鉢植え付近に屈み、そして戻ってきた。 「これ、鍵ね。大家の部屋に用がある時は鉢植えの下にあるから」 ニカッと笑い鍵を差し込む。 「おいおい……」と呟くソラをヨソに、暗闇に包まれた部屋の中へと姿を消した。 「そういや名前なんてーの?」 暗がりから聴こえる声。 「夕上ソラだけど」 「ふんふん……おっ。よし」
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