未来へ

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 『…裕希…』  …その時、ここには居ないはずの晃太に呼ばれた気がして、バッと起き上がって左右を見回した。しかしやっぱり晃太がいるはずもなく、私はまた土手に体を沈めた。    私は空に目をやり、まるで音楽を奏でているような美しい星々を見つめた。そしてそのまま、私は自分の手を自分の胸に宛がい、涼しげな夜風を顔で感じながら、晃太の温もりを思い返した。    ふと横を見てみれば、そこには一輪のコスモスが咲いていて、私はまるで今の状況が、…名前の意味合いは銀河と花で全く異なるけど、発音がよく似ていて題名を聞いただけでは歌詞の内容を一瞬勘違いしてしまいそうな合唱曲の、歌詞の冒頭と似ているなと苦笑いをした。  実はこの曲、元々中学校でクラス賞をとった思い出の曲でもあったので、私は思わず懐かしくなってその曲を口ずさみ、昔の思い出に浸った。  すると、いつの間にかこの曲の歌詞に感情移入をしてしまっていたのか、自分の感情を抑えきれなくなり、気が付いたら涙を流していた。    自分の涙で視界が歪む中、轢かれそうになった子を守るために身代りになってまでその子を助け、自分はそのまま事故に巻き込まれ、いまではもう手の届かない所へ逝ってしまった彼、晃太を思い、また涙を流した。  葬儀では一切流さなかった涙。でも今はあなたとの…晃太との思い出を、笑顔を、声やしぐさを一つ一つを思い出しては、晃太とはもう生涯二度と会うことができない、叶わない喪失感に絶望という谷底へ突き落され、私はそのまま感情の波に押され、闇へと落ちて行った。 …気がついたら空には月が真上に昇っていた。私は徐に立ち上がり、土手から辺りを見回した。星々が見守る中、空に祈りをささげながら一筋の涙を流した。 …必ず来るであろう未来に思いを巡らせ、新たなる決意に胸を高鳴らせて…。            完
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