13人が本棚に入れています
本棚に追加
 ̄
「おせぇよ。ちぃのろま。」
顔を上げれば、理[オサム]の姿。
一回も染めたことのない黒い髪。
すべての女性のハートを射抜いてしまうような、切れ長な目。
心地よいテノールな甘い声。
程よく着崩した制服。
仏頂面さえしてなければ、パーフェクト。
幼なじみのあたしでさえ格好いいと思う。
「すみませんね。」
あたしは謝る気なんて、全然ないけど謝っておく。
後が、うるさいから。
「早く後ろ乗れや。」
「言われなくても乗るしぃ。」
理の自転車のかごに、鞄を投げ込むように入れる。
理はマイ自転車に跨ると、後ろに乗るよう顎で促した。
なんかムカつく。
だから、わざとらしくドカリと座ってやった。
「おわっ!?」
自転車は、バランスを崩して倒れそうになる。
「あぶねぇだろが!」
「大丈夫。オサムンだから大丈夫。」
「意味わかんねぇよ。」
「‥‥―。」
なにも言わず、ぷいっとあたしはそっぽを向いた。
駄目。
今日のあたしイライラしてる。
そりゃあなんてたって。
これから、滅茶苦茶めんどくさいイジメが始まるかもしれないんだもの。
誰もいい気なんてするはず無いって。
誰か喜んでいる人をみたら、是非ともあたしに教えてちょうだい!!
「そうか。お前がその気なら、こっちだって考えがある。」
「えっ?」
理が微かに、笑ったのを見逃さなかった。
ペダルを思いっきり踏んづけたせいで、自転車は急発進をする。
「ぎゃっ!?」
なんとも品のない声が、口から漏れた。
理に掴まってたけど、いきなりすぎてあたしがバランスを崩す。
「ちょっ、危ないじゃん!!」
「大丈夫。ちぃのだから大丈夫。」
けけっと、悪魔のような笑い方をする理。
誰、この人。
あたしの幼なじみに、こんな男いないんだけど。
「イライラしてて、八つ当たりしてごめんなさいは?」
まるで親が、小さい子に怒るような怒り方。
さすが、幼なじみ。
だてに17年一緒にいないわ。
イライラしてることも、バレちゃうわけ。
「しらなぁい。」
でも、あたしはまたぷいっとそっぽを向いてしまった。
やめときゃいいのに。
「あぁそっ。ちぃのちゃんは、そう言う事するんだ。へぇ‥‥―。」
理は怪しい笑みを浮かべるけど、あたしは知らんぷり。
もう、いい。
開き直っちゃうんだから。
今日のあたしは、機嫌が悪いの!!
最初のコメントを投稿しよう!