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エルウィンは涙を流しながら斬りかかる。2人には訳が分からなかった。エルウィンの目的、戦う理由、流す涙が。
「可哀想に…。貴女は…とても辛い過去を持っているのですね…」
エルウィンは優に向かって聞くように呟いた。優は驚き戸惑う。エルウィンの剣が襲った。
「危ないッ!」
早紀が叫び、優の服を掴み後ろへ引いた。その瞬間、針をエルウィンの足下へと投げ刺した。針が一瞬光り、人を1人飲み込む程の爆発を巻き起こした。
「くああっ!」
エルウィンは泣き叫び、爆発に飲まれた。その呆気なさに優と早紀は茫然とした。
「何、このドッペルゲンガー…」
優は未だ見たことも無いドッペルゲンガーに頭を混乱させられた。
狂気を振り撒く輩ならばダメージを気にせず突っ込んでくるだろう。しかしエルウィンは爆発に飲まれ、素直に攻撃をうけていた。
「ふぁっ!貴女の悲しみには…まだ程遠い…」
爆発が止んだ後に煙の中からエルウィンは出てきた。涙は止まっていない。
「…」
身の毛も弥立つ気味の悪さ。それはやがて恐怖となり、優は全身が強張った。
「“悲哀者”…ですね」
早紀が呟いた。その言葉を聞いたエルウィンはニコリと笑う。
「そうですよ…。貴女は知識が豊富ですね。私を知っているなんて…。そうです、私は“悲哀者”エルウィン・アレイド。私を知るものは皆息絶えたと思っていましたが…」
エルウィンは泣きながらも笑う。相変わらず気味の悪さは変わらなかった。いや一段と増しただろうか。
「何…その二つ名?意味が捉えきれないよ…」
「“悲哀者”、つまり悲しみを感じとるドッペルゲンガーです。彼は思い込みが激しく、自分の世界に入り浸ります。昔の二重身殺し逹の記録によると…まるで記憶を読み取られている様だった…、と書いてありました」
エルウィンは笑い、剣を振り上げて斬りかかってくる。どこか力無く、バランスが崩れそうな攻撃だった。
「思い込みが激しい…違いますよ」
優は叫び短刀を振り回す。エルウィンはフラフラとしながらかわしていく。
「想像などでは…ありません。私には見えるのですよ。貴女の悲しい過去が。ドッペルゲンガーに殺された家族が。たまたま生き残ってしまった貴女の姿が!」
え…?なんで…知って…?
次の瞬間、優の腹部には剣が刺さっていた。
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