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ズズッ…
静かに優の腹部からゆっくりと剣が抜かれる。エルウィンは泣きながらも笑っているようだった。優はその場に腹部をかかえながら崩れ落ちた。
「優ッ!」
早紀が優の名前を叫びながら駆け寄ってくる。エルウィンは赤く染まった剣の切っ先を優の首に当てた。
「近寄らないでください…」
早紀はその場で立ち止まった。優とエルウィンまで3メートル程の距離。物凄く遠く感じた。
「痛いですか…?」
「かぁっ…はっ…はっ…はっ」
優は横向きに倒れ腹部を押さえていた。血が止まらない。背中からも血が流れ出していた。呼吸もうまく出来ず、涙、鼻水、汗が止めどなく出ていた。
(どうすれば―?)
早紀が迷った瞬間だった。エルウィンは一瞬にして早紀との距離を詰めた。剣を早紀の腹部を目掛け突き刺す。
「くっ…!やぁっ!」
一瞬にして反応した早紀は後ろへ一歩飛んだ。すかさず針を投げ込み、エルウィンは下がる。
トス、トス、トス…
針が何かに刺さった音がした。エルウィンは自分の体を見渡す。しかし何処にも針は無い。
「大丈夫ですよ、貴方に刺してませんから。私が刺したのは…」
早紀はそう言ってエルウィンの足下を指さした。エルウィンの目には有り得ないと言いたくなる光景が写る。
「…素晴らしい!」
エルウィンは叫んだ。
優の2つの傷口を上手く縫い付ける様に針が刺さっていた。先程と比べ、余り血が出ていなかった。
「私の家計は代々医者でしてね…、針治療を得意とするんです。それは疲労などをとるだけで無く、こんなふうに…傷の手当にも対応出来るんですよ。まぁ投げれるなんて…私くらいですけどね」
軽く自慢気に早紀は言った。エルウィンは一瞬圧倒され、強く剣を握りしめる。
「ですが間に合いませんね。現在の幸福…過去の悲劇…全てを断ち切ってあげましょう!」
優の頭部を目掛けて剣を降り下ろした。
「貴方じゃ無理です…よっ!」
早紀の回し蹴りがエルウィンの頭部にクリーンヒットする。エルウィンは飛び、壁にぶつかり崩れた。
「優の真似です」
「…貴女の過去も。ほう…兄ですか」
早紀は一瞬眉をひそめた。エルウィンが顔を押さえながら剣を拾い立とうとした時ー。
「終わりです」
無数の針がエルウィンの全身に突き刺さる。エルウィンは悲鳴をあげながらもがき始めた。
パチンッ
早紀が指を鳴らした瞬間、針が光り爆発がエルウィンを包み込んだ。
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