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「あぁぁぁぁぁ!!」
悲痛の叫びをあげながらエルウィンは煙の中から飛び出した。全身の至る所から流血している。
「…過去を見られるのは…嫌ですか?」
エルウィンは自身の体を抱き締め泣き続ける。エルウィン自身も身体中の痛みの涙か、それとも共感する悲しみの涙か分からなくなっていた。
「しぶといですね」
エルウィンの言葉には耳を傾けない。囁きと共に早紀は針のような剣を刺そうとする。エルウィンの剣と比べ、少し短い位のフェンシングで使われる剣だった。
「医療に加え…剣術も出来るのですね。貴女は素晴らしい…!」
エルウィンは早紀の攻撃を受け流しながらも話し掛けていた。痛みを忘れているかの様に軽快に動いている。
「…残念ですよ…敵であることに」
エルウィンの目つきが変わる。早紀は今までに無い殺気を感じた。一瞬何が起きたか分からなかった。気が付いた時にはすでに早紀の剣は刀身の半分が消えていた。
「な…何が!?」
「斬っただけですよ…あぁ親愛なる神よ、この少女に安らかな眠りを」
エルウィンはペロリと口元を舐めた。剣を振り上げ、目で追いきれない程のスピードで降り下ろした。早紀は肩から腹部にかけ、前半身を斬られ、鮮血を撒き散らしながらその場に崩れた。
「くせぇっ…」
真は1人呟きながら歩いていた。声が響き、視界は薄暗い。たまに灯りがあるだけで異臭も放っている場所だった。
「こっち…か?」
真は感覚を研ぎ澄ます。第六感、いやドッペルゲンガーの力、と言うべきものだろう。
少し歩き、薄暗いにも関わらず、人影が見えた。いや人では無く、ドッペルゲンガーが。
「“朽世主”か」
ドッペルゲンガーはコチラを向き、呟いた。ニヤリと笑い、不気味さを漂わせる。
「何が目的だ」
真は無駄話をする気は無かった。敵を逃がすつもりなどさらさら無い。目的を聞き出し、殺すつもりだった。
「…嫌いじゃないよ単刀直入な聞き方は。だが…答えないことなど…予想くらいつくな?」
ドッペルゲンガーは真を馬鹿にする様に頭をつつきながら呟いた。次第に目が慣れてきたのだろう。ドッペルゲンガーの姿がハッキリとしてきた。フードを被り黒い装束で全身を覆い隠していた。
「初めまして、“予言者”榊原 葉淵(さかきばら ようえん)だ」
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