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一瞬。
一樹はそれがどういうものなのかを実感した。目で追いきれない程のスピード。そんなものが本当に存在するなんて。
ガチャッ…
優弥はハルバートを背中に背負った。
「…な…んだ…?オマ…エ」
ドッペルゲンガーは力を振り絞り声を出した。優弥はドッペルゲンガーへ振り向く。
「人間を守り、お前等を消す者だ」
決まりきった事。それ以外にあまり理由など存在しない。優弥はニヤリと笑ってドッペルゲンガーに近づいた。
「じゃあな、ドッペルゲンガー」
ドッペルゲンガーは消えていく。腹部が真っ二つに切り裂かれ、上半身、下半身が次第にうっすらとしていく。
「すっげ…」
一樹は言葉を漏らした。その一言以外に何も言うことが出来ない。優弥はドッペルゲンガーの近くに落ちた鍵を拾い、一樹の方へと歩いてきた。
「待たせたな」
「…あぁ」
一樹は未だに呆然としていた。優弥に比べ、自分が情けなくなる。自分がこの中で一番弱い事なんて、嫌でも分かっている。
「…み…こと」
一樹は誰にも聞こえないようにかすかに呟いた。まるで何かを思い出したように。
拳を握り締めて、強さを手に入れたい。一樹は優弥の力に惹かれ、憧れた。
今はただ、優弥についていくしか無かった。
「あれ…?」
優は目が覚めた。どうやら気を失っていたらしい。隣には処置を受けた早紀の姿。疲れ、傷もあり眠っていた。周りを見渡す。何処かの裏路地。誰も居なかった。
「気付きましたか」
1人の人物が壁から顔を出し駆け寄ってくる。頬には『DOPG』と刺青が彫ってあった。
「…ドッペルゲンガー?」
「『DOPG』のセフェラン・アルバートと申します」
容姿は美形の男。二十歳は越えているだろう。長い黒髪が微かな隙間風になびいていた。
「“悲哀者”なら私がどうにか追い払いましたよ。もう大丈夫です。彼女が目を覚ましたら移動しましょう」
ニコリと笑い安心感を漂わせた。またそこが怪しい。優は少し警戒しながらもコクリと頷く。
「ん…」
やがて早紀も目を覚ました。
セフェランを見るなり驚き、戦闘体勢に入ろうとする。しかし刺青を見て腰をストンと落とした。
「味方でしたか…驚きました」
「ハハ、すみません。さて…動けますか?」
「敵の気配が消えました。恐らく退いた…もしくは倒したのでしょう。真さん逹と合流しましょう」
裏路地を出て塔を見上げる。
皆、一安心といったところだ。
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