君に捧げるシューゲイザー

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 寒さに耐え切れなかった俺は、自販機の前で立ち止まった。財布の中も気温に負けず劣らずお寒いことになっていたが、目の前のコーンポタージュの誘惑に屈した。  小銭を、ちゃりん、ちゃりん、と自販機に入れる。ボタンを押した時に、誰か俺の後ろを通り過ぎた。コーンポタージュの缶をとりつつ目をやると、それは鈴沢さんだった。黒い髪とクリーム色のマフラーを風に遊ばせ、耳にはイヤホン、右手でプレイヤーをいじっている。    昨日みたいに背中越しに声をかけてやろうかな。悪戯心が沸いた俺は、びゅうびゅう音を立てる風に足音と気配を紛れさせて、鈴沢さんに近づいた。    が、気付かれた。  鈴沢さんは俺との距離が1メートルとなったところで、くるりと後ろを向いた。そして俺を見てちょっと目を丸くして、ちょっと不機嫌になった。   「やあ、鈴沢さん」ポケットから手を出す。   「……今村くん」鈴沢さんは片耳からイヤホンを外した。   「怒ってる?」   「怒ってないよ……ちょっと不機嫌になっただけ」    思わず苦笑する。俺を一瞥した鈴沢さんがまたくるっとそっぽを向いて歩きだすから、俺も一歩踏み出しつつ訊ねる。   「昨日のCD聴いた?」    と、彼女は恥ずかしそうにマフラーに顔を埋めた。隣に並んだ俺を横目でちらりと見て、さらに顔を埋める。   「今村くん……ああいう渡し方って……わ、私もその、女、なんだし……」    彼女の薄い胸にCDを押しつけたことが思い出される。そう言われると俺も恥ずかしい。   「あー、まあ、なんだ、悪かったな」    鈴沢さんはむっとする。教室では見られないであろう表情だ。   「……で、えと」   「CDだよ。『勝手にしやがれ!』聴いた?」    こっちを向くこともなく頷いてみせる鈴沢さん。   「どうだったよ?」   「……野蛮、だった」   「やっぱ?」    録音環境はもちろんボーカルの歌唱力も並以下、ギターもベースもドラムも大して上手くなんか無いし凝ったフレーズもない。なのに威勢ばっかよく楽器を喧しく鳴らし、間抜けな声のボーカルがファック、シット、ノーフューチャーと叫ぶ。そんな曲がきれいなわけが無い。   「ギターはパワーコードばっかりで音も汚いし、ドラムもベースも単純だし、ボーカルはヘタなのに前に出てるし……」   「ひどい言い草だな」
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