君に捧げるシューゲイザー

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 引っ張られて数分、2階建ての小ぢんまりした家の玄関で鈴沢は立ち止まった。 「ここ、お前んち?」   「うん。借家だけどね」   「なんで」   「渡したいものがあって……ちょっと待っててね」    俺の言葉を制した鈴沢はぱたぱた走りだして家に飛び込んでいった。    静かな住宅街の道路に1人。俺は鈴沢の家の玄関口の塀に寄り掛かって、鈴沢を待つことにした。  渡したいものがある。俺は一体それがなんなのか訝りながら、でもどこかわくわくして、落ち着かない気分になった。    10分ほどして、鈴沢が出てきた。何かを隠すみたいに、手を後ろに組んでいる。   「ごめん……遅くなりました」   「いやまったくその通り」   「……今村くん、そんなんじゃ女の子に嫌われるよ」   「うるせ」    で、と俺は塀から背中を剥がして鈴沢に向き直る。   「渡したいものって?」    尋ねると、鈴沢はおずおずと背中に隠していたものを俺の前に差し出した。    小さな両手に捕まれた、安っぽいプラスチックの正方形が、鈴沢の両手の上で太陽の光を反射する。   「CD……?」    鈴沢がこくこくと頷いた。   「このCDは」    鈴沢はか細い声に力をこめて喋った。すうっと大きく息をして、黒々とした瞳で俺を捉えた。いつになく強い意志を、隠すことなくはっきりと俺に示す。   「独りの時に聴いて」    ――例えば、CDの中身がなんだとか。なんでそんなものを寄越すのか。なぜ独りの時なのか。さらに言うと、なんでお前はそんなに必死なのか。  疑問は色々あった。でも鈴沢の言葉を聴いて、そんな思いは一切、どこかへ吹き飛んでいってしまった。    俺はただこいつを受け取り、独りの時に聞けばいいのだ。そう思った。   「……おう」  手を伸ばし、CDを受け取る。バッグの中に、タオルでぐるぐる巻きにして、卒業文集を覆い被せて、しまった。
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