君に捧げるシューゲイザー

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       1曲目はノイズの向こうにキャッチーなメロディラインを隠した、ギターポップとシューゲイザーの合いの子のような曲だった。所々に感じるギタープレイの拙さや、極端に小さいベースのフレーズの単純さ、ドラムのフィルのパターンの少なさが少し気に掛かったが、それを考慮しても、鈴沢のセンスの良さがよく分かる。ギターの重ね方や曲展開は、個人で作ったとは思えないくらいだ。アルペジオのきらきらした音作りや細いながらも伸びのある綺麗な歌声も素晴らしかった。    フィードバックノイズだけを残して曲が終わり、そしてノイズの向こうから再び音像が姿を現す。1曲目と繋がる様にして、2曲目が始まった。    ふと、交換のために電車が停まっていることに気付いて、顔を上げた。すでに3つ、駅を過ぎていた。  この電車が今、何処を走っているのかも忘れていた。窓の外に見たことがない景色が広がっていることにも気付かなかった。それほどまでに、心地よい音楽だった。  その心地よさを実感して、なおさら自分の行為を悔やんだ。    安っぽいプラスチックケースに挟まった厚紙のジャケットを眺める。色鉛筆で描かれたジャズマスター。裏側には女の子の字で書かれた曲名と、鈴沢恵子の名前。    たいした関わりもなかったのになぜか印象に残っている名前を睨み続けていると、あることに気が付いた。    このジャケットは、厚紙を2つ折りにしたものだ。    歌詞でも書いてあるのだろうか。そう単純に思い、ジャケットを抜き取った。    厚紙のジャケットを開いたが、裏には何も書いていなかった。その代わりに、綺麗に折られた紙が挟まっていて、俺がジャケットを開いたと同時に、はらりと膝のうえに落ちた。   「なんだこれ……」    膝のうえに落ちたそれを拾い上げてみる。裏にうっすらと透けた字が見て取れる。    手紙だろうか。そう考えた途端に、いやな考えが次々浮かんだ。  お節介だ、上から目線だ、人の気も知らないで。彼女が俺にそういう気持ちを抱いていたとしたら。    自分自身、分からなかった。なぜ俺は彼女の殻を壊そうと思ったのか。それが正しいことだったのか。  もやもやした、はっきりした意志のうえでない行為だ。    彼女がそれを――ひいては俺そのものを――どう思っていたのか。それがこの紙に書かれているのかもしれない。    俺はそっと、4つ折りの紙を開いた。
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