君に捧げるシューゲイザー

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「ライド、好きなの?」    話を逸らすためにそう聞いた。    鈴沢さんはちょっと意外そうに表情を崩したあと、可愛い声で小さく「うん」と言った。   「なんていうんだっけ、そういう、えーと、シュー」   「シューゲイザーのこと?」   「それだ」    ちょうど最近、見なおされてきた音楽のジャンルだった。シューゲイザー。多重ギターで夢幻的な世界を表現した、90年台の音楽ジャンル。   「シューゲイザーが好きなの?」    鈴沢さんはこくんと頷く。   「うん……。マイブラ系列も好きだけど、どちらかと言うとライド派……かな……」   「ふむふむ」なるほどさっぱり分からない。   「今村くんは……えと……ライド、好き?」   「あー、別に」   「そっか……詳しいんだね、洋楽」   「それほどってわけじゃないぞ」   「そうなんだ……」    そう言う鈴沢さんは少し残念そうだった。小動物に似た童顔を淋しそうに曇らせ、ふてくされたように唇をわずかに尖らせた。憂いでも、無理な笑顔でもない、初めて見る本当の表情だった。    その表情を見た瞬間、心臓の裏側から感じたことのない感覚がじわりと滲み出てきた。鈴沢さんから目を反らしてしまう。不覚にも彼女を可愛いと思ってしまった。  なんだ、彼女、色んな表情が出来るじゃないか。俺は初めて彼女に親近感を覚えた。そして、余計なお節介を焼いてもいいような錯覚も。   「……じゃ、俺、ココアだけ買って帰るから。帰り道気を付けなよ」   「う、うん……ありがとう、おやすみなさい」    しかし結局、俺は彼女に「学校来いよ」の一言も言わず、さっさと帰ることにした。    回れ右をして、店の出口に迎う。入るときは気付かなかったが、自動ドアの手前にレンタル落ちの中古CDがワゴンにぶち込まれて売られていた。俺はそれを少し物色することにした。  そして、洋楽のアルバムコーナーに「勝手にしやがれ!」が500円で売られていることに気付いた。    俺はそれをワゴンから引っ張り出して、レジに持っていた。会計を済ませ、梱包されたCDを持って、再び店に戻る。
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