一章

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「………駄目だ。切れた」 しばらく握り続けていたシャーペンを置き、周りの邪魔にならない程度に体を伸ばす。首周りからはぱきりと渇いた音が鳴った。 図書室に着いてから小一時間、三人揃って黙々と机に向き合っていたわけだが、流石に集中力が切れてきた。 短期集中型ゆえに、一度切れるとだれてしまうのが、俺の数有る欠点のまた一つである。 同席者の様子を何気なく見遣ると、依然真剣な眼差しでノートと向かい合う細川はともかく、大中も俺と同じように小休止に入っているようだった。 こちらからでは軌道すら読めない動きで、縦横無尽に回転運動を繰り返す筆記具。 まぁ、つまるところペン回しだけど。 ペンの中程を中指で支え、そこを支点とし同じく支えとする親指を互い違いに押し込む―個人的には、指パッチンの要領だと思っている―ことで、一回転させ、初期位置と同じ構えでキャッチする。 この程度の動作さえ八割も成功しない俺からしては、大中のペン回しの技は『絶技』と呼んでも過言ではなく、その仕組みはかけらも理解できそうにない。 ………息抜きの暇潰しでさえ、スペックの違いをまざまざと見せつけられた気がして、深い溜息が零れた。
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