1人が本棚に入れています
本棚に追加
かちゃかちゃと音がしたあと、女子寮の一室のロックが、静かに開く。
「こんにちはー」
などと言いながら、俺はピッキングの道具をコートのポケットに仕舞い込む。
空き巣なんてのは簡単なもんだ。あとは通帳か金目のものを物色するだけでいい。
土足でフローリングの床に第一歩を踏み出す。
「……誰?」
ふいうちだった。
全身の毛が強張る。
突き当たりの部屋――おそらくリビングだ――から見知らぬ女が顔を出したのだ。
まずい。
非常にまずい。
住人と鉢合わせるなど、自称空き巣のプロとしてあってはならないことだ。
慌てて後ろ手でドアノブを探す。痛い。ノブに手をぶつけてしまった。
痛みを堪えて思い切り掴む。しかし、冷えた汗で滑ってしまう。失敗に焦りながら、三度目でようやく捕まえた。
だが俺は、外には出られなかった。
ドア越しの共通廊下で、馬鹿笑いする女子大生たちの声が響いているのだ。四人はいるだろう。まだ目の前の一人を突破するほうに逃げ道はある。
「誰かいるんでしょう? 誰なんですか、答えてください」
ふらふらと、どこか安定性のない足取りで、廊下の壁に手を這わせながら女は歩いてくる。目を瞑ったままだ。
最初のコメントを投稿しよう!