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空き巣にご注意☆(その2)
いや、うっすらとだけ開いているか。しかし焦点は微妙に定まっていない。
それにさっきの台詞は絶対におかしい。
これは、もしかして……
視覚障害者の文字が脳裏を掠めた。
「た、宅急便です。赤い帽子が目印の」
しれっと言ってのける。この場を脱するために、相手の独特の挙動に賭けてみたのだ。
「あ、ごめんなさい。私、目が見えなくて……。失礼しました」
ビンゴ。
女はうやうやしくお辞儀をしてくる。
ついさっきまでの警戒心丸出しの口調はどこへやら、目を閉じたままはにかんだ。
歳相応の魅力に、思わず頬が緩んでしまう。
目は多少キツめだが、顔立ちは整っている。
どうやら俺は悪運に恵まれているらしい。
「すみません。判子、要りますよね?」
女の言葉に面食らってしまった。
そうだ。
俺は宅急便の下っ端役だった。
「いえ。ないならサインでも――じゃなくて、ぜひとも判子でお願いしますっ」
慌てて訂正したのは、少しでもこの場で粘らなければならなかったからだ。
台詞から察するに、印鑑は探さないと見つからないのだ。その間はとりあえず、留まれる。
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