空き巣にご注意☆(その3)

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空き巣にご注意☆(その3)

 予想通り、女は視点の定まらない瞳を床に落としたまま、困ったようにさらに俯く。 「いつもなら用意してあるんですけど……」  つまり、無いわけだな。  おそらく普段はすぐに手のつくところに置いてあるのだろう。なにせ視界が真っ暗じゃ、俺なら歩くことすらできん。知り合いにでも整理させているに違いない。  なおも背後の外には人の気配がある。  まだまだ時間は欲しい。  所在無げに立ち尽くす女を眺め、俺は一つの案を持ちかけた。 「失礼でなければ、探しましょうか」  突然の申し出に、いささか女は驚いたようだ。  俺が引き返すことを望んでいたかもしれないが、そうはいかない。  俺の台詞に対する答えは、肯定なら勿論だが、否定だろうと、時間を長引かせることができる。  これは遠まわしに探すことを催促しているのだ。  逡巡の結果、女は俺を部屋に招きいれた。 「散らかってますけど」  通されると、女の言葉とは違って掃除の行き届いた部屋が広がっていた。  八畳ほどの広さがある。俺の住むアパートなんかよりずっと広い。ちくしょう。 「とりあえず僕はこの机探しますから」  と言うよりここしか探し場所はない。他は衣装ダンスくらいだ。  角を陣取る机の引き出しは素っ気のない色のものだ。  女らしい飾り付けはないにしても、なかを見るのに躊躇してしまう。  思えば久しぶりだ。  了承を得て女の部屋に入るのも、物に触れるのも。
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