始まり

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必死で逃げ続けた。 少しの安らぎを求め 誰もいない場所へ…。 どの位走り続けたのだろうか? 気が付けば静かな街外れまで来ていた。 周りを念入りに見渡し 呼吸を整え痛みに気付く。 いくつも投げつけられた石は体に当たり 血で漆黒の毛が濡れている。 周りに人間の気配はない。 安心と疲れで冷静になった体が痛みを訴える。 傷を癒やす為 暗闇の中に身を潜め 血が溢れ出る箇所を舐め続けていた。 ――ふわっ 突然地面から体が離れ 暖かい布が体を包む。 「????????????」 何が起きたのか分からず呆然とする。 『今晩は。 素敵なおちびさん。』 いつもの罵声ではなく 優しい 暖かい声 でも大嫌いな人間の声 嫌われ者を抱き上げたのは 若い絵描きの腕だった。 『怪我をしているね? 君も1人なのかい?』 優しく傷付いた体を洋服で包み込み 撫でながら猫に話しかける。 ――「殺される」―― ふとそんな言葉が頭を通り過ぎた。 「…離せ!!離せよ!!」 痛みと疲れであまり力が出ない。 それでも生きる為に 残っている力で精一杯もがいた。 鋭い爪で撫でるその腕を引っ掻き 勢いよく飛び降り逃げ出した。
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