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いつの間にか逃げる事を止めた足は
ゆっくりと変わり者の元へ歩き出していた。
――行くな!――
本能が叫ぶ。
それでも歩き出した体は止まらず
変わり者の目の前まで来てしまった。
『僕の友達になってくれないかい?』
変わり者はそう問いかけると
目の前で立ち止まった小さな黒猫に
そっと手を差し伸べ微笑んだ。
――信じたい――
不思議とそんな気持ちが込み上げる。
大嫌いな人間。
でもこの男なら…。
警戒しながらも
ゆっくりと差し伸べられた手へ向かう。
まるで体が引き寄せられる様に。
『大丈夫。
怖くないよ?
僕は君と友達になりたいんだ。』
優しく宥めるように話しかけ
手元へ寄って来てくれた猫を抱き上げ
大事に抱き締めた。
「温かい…。」
さっきまでとは違い
猫は抵抗する事なくそのまま腕の中で眠った。
生まれて初めての長い安らぎの場所。
生まれて初めての光がある場所。
それが嬉しくて
心地良くて
生まれて初めて深い眠りへ沈んだ。
そんな猫の姿を男は少し悲しげに見つめていた。
『今まで沢山苦労をしてきたんだね。
今日はゆっくりおやすみ。』
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