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「ここ」
目の前には、大きなビルがたっていた。
「この上にね、中華のお店があるんだけど、景色がいいのよ」
僕たちは1階の広いロビーの脇にあるエレベーターに乗った。
ホテルかと思ったが、いくつかの企業が入っているらしかった。
彼女は37階のボタンを押した。扉が閉まり、エレベーターは静かに動き始めた。
小さな密室に2人きり。至近距離で一瞬の沈黙。かすかにいいにおいがする。
妙にドキドキしてしまい、耐えられずに僕は、
「ここ、よく来るんですか?」と言った。
「そうでもない。年に2回とか」
「今年は何回目?」
「2回目」
「前回はいつ?」
「今年の頭。1月かな」
「誰と?」
と、チーンと鳴ってエレベーターが止まった。
「気になる?」
彼女は笑顔で僕を見ると、エレベーターから降りた。
僕は急に恥ずかしくなって、あわてて後を追った。
一体何を聞いてるんだ…。
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