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僕は弘美のことが好きだ。学生時代からずっと。時々ケンカもするが、とてもうまくいっている。幸せだとも思う。
でも僕は、今目の前にいるこの女性のことももう好きだと感じている。こうして話していても楽しいし、同時に落ち着く。
恋のドキドキと、安心感が混ざった不思議な気持ちになる。
できれば、もっと一緒にいたいと思う。たとえ、誰かの奥さんでも…。
「奥さん…」僕は妙に居心地の悪い響きだと思った。
そして、彼女をちゃんと呼んだことがない事に気付いた。
「…って何だか変ですよね。何て呼べばいいですか?」
「奥さんはイヤだわ。私、良子っていうの。良子でいいわ」
「リョウコか、うーん、じゃリョウコさんで」
「えぇ」
外を見ると、雨はさっきよりひどくなっていた。
音もなく降りしきる雨が、灰色の街を濡らしていた。
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