THE END OF THE WORLD

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 8つも年上のこの女性に、僕はどうしてこうも惹かれるのだろう。 彼女の後ろ姿を見ながら、僕は思った。 淡い紫色の傘をさした彼女は人ごみにまぎれ、すぐに見えなくなった。 僕は大きな黒い傘をさし、反対の方向へ歩き出した。  彼女はバイト先の店長の奥さんである。 こうして会うようになって、もう1年がたつ。 初めて会った日も、こんな雨の日だった。僕がバイトしているのは、個人で経営している小さな喫茶店だ。 基本的に店にいるのはマスターとバイト2人。マスターはたいてい事務所兼控え室にこもっていて、軽食の注文が入ると作りに出てくる。 飲み物のみの注文だと僕らが作る。コーヒーの場合、サイフォンで一杯一杯丁寧にいれる。 だいたい1人がフロアで1人がカウンターの中だが、ヒマな日はバイト1人でも充分まわせる程の広さである。 その日は雨のせいかとても客足が悪く、あまりにも暇だったため、僕は1時間早く上がることになった。 僕は私服に着替え店を出た。雨がざあざあ降っている。 僕は軽くため息をついて、大きな黒い傘を広げた。
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