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ゆっくり歩き始めると、前から綺麗な女性が歩いてきた。
薄紫の傘をさし、品の良い薄いセーターを着ている。
彼女は僕と目が合うと、にっこりと笑って会釈した。僕も反射的に頭を下げたが、見覚えはなかった。
彼女はすーっと横切り、僕が今出てきた店に入って行った。
僕は立ち止まり、無意識のうちに彼女の後を追って店に戻った。
店に入ると、彼女の姿はなかった。
バイトの女の子が、すぐに戻ってきた僕を見て
「あら、忘れ物?」と言った。
僕は、誰もいない店をきょろきょろ見渡してから、曖昧な笑顔で
「あ、うん。ちょっと…」と言った。
幻でも見たのかと首をかしげながら、忘れ物を取りに行くふりをして控え室に行った。中にはマスターがいるはずだ。
ドアを開けると、マスターではなく彼女がいた。
「あ…」僕は思わず声をあげた。
「あら、こんにちは」彼女は笑顔で言った。
「こ、こんにちは」
僕はとまどいながら返事をし、思わずそのまま部屋を出てしまった。
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