世界ガ揺レテ、全テノ音ハ消エ去ッタ

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   蝉の声が聞こえる。  気が付けば俺は花の下へと足を走らせていた。  計画が破綻しても尚俺を引き止めようとした奴等は全て叩きのめした。  途中岩場で足を傷付けたが、そんなこと気にする筈も無い。  『この子をよろしく……ね』  耳にこびりついて離れない母の言葉が頭の中で鳴り響く。  俺が家に辿り着いた時、花は村人によって外へと引きずり出されている所だった。  まだ殺されてはいなかったが、全身痣だらけで切れた唇から血が流れている。  それを薄ら笑いを浮かべながら見物する村長とその取り巻き。  「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」  持っていた木刀で花の腕を掴んでいた男に一撃を食らわせる。不意を突かれたそいつは呆気なく気を失った。  花はと言えば、突然の出来事に状況が掴めず、俺を見つめて座り込んでいる。  「逃げろ、花! もたもたするな!」  俺に睨み付けられて花はびくりと体を震わせると、山へ向かって走り出した。  それを見届けると彼女を追い掛けようとする奴等の前に立ち塞がり木刀を構える。  「俺に勝てるとは思わないだろう?」  笑みさえ見せてみせる俺に対し彼等は僅かに後ずさる。  しかしそれに動じること無くゆっくりと歩み出る村長。威厳の象徴だとばかりに蓄えられた白髭が妙に腹立たしい。  「太郎、仕方ないじゃろう。村から誰か一人、となれば彼女以外居るまい。もっとも、アレが本当に人と呼べるのかは――」  「ふざけるな!!」    怒りを露にする俺に、村長は大きく溜め息を吐いた。  「今まで随分と長い間君の意を汲んできたつもりじゃがね」  村長は変わること無く淡々と話を続けていたが、その目には同情と軽蔑の色が浮かんでいる。  「君も厄介払い出来て良かろう。きっと母君ももう君を許してくれる」  「うるさいうるさいうるさいうるさい!!」  我を忘れて叫んだ俺に、村人達を驚いた様子を見せていた。  だが冷静では居られなかった。それは今までの俺を否定する言葉だったからだ。  村長に突き付けた木刀の切っ先がゆらゆら揺れる。  永遠に続くとも感じられた睨み合いの中、先に口を開いたのは村長だった。  「そうか……ではアレを追うのは止めよう」  そう言って彼は自分に向けられた木刀を掴んで下ろす。  次の瞬間、俺の腹部に激痛が走った。  「その代わり君に生け贄となって貰う」  
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