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もうそろそろ冬になろうかという日の晩、寂しげに照らす三日月。冷たい風は容赦なくあたしのふくらはぎを叩きつける。公園に呼び出されて数十分。いい加減、足が痛くなってきた。電柱としての役目を半世紀前に終えた丸太にもたれ掛かる背中も、悲鳴を上げている。
――というより、十代真っ盛りの乙女を冬の公園に放置するとは何事だ。
事の発端は今日の昼休憩、あたしが乙女らしさをポイ捨てして、水筒の温かいお茶をがぶ飲みしているときだった。無防備なあたしの肩を何の前触れもなく強く叩きながら、あたしの友人の一人・伊達メガネの藤クンこと藤原圭介が言い放ったのだ。
――一応言っておくが、決して某有名バンドのボーカルとは一切関係ない。
「江川、今日の晩公園に来い。星見に行く」
いきなりのロマンチシズム登場に、あたしは当然のごとく、呆気にとられた。
「……あんたはいつからロマンチストになったかね。まあバイト無いからいいけど」
訊くと、幼なじみの澪夏(レイカ)の提案で、来るのはあたし、藤クン、澪夏の三人らしい。別に星が好きな訳でも、天体観測と洒落込みたかった訳でもないが、あたしだって友人からの誘いを容赦なく、即座に断るほど冷たくないのだ。――しかし、来るのが遅すぎる。電話でも掛けて、怒ってやろうか。
ついさっき、家を出るときに開けたばかりの、ほんのり熱を発するカイロを握りしめながらそんなことを思っていると、道路の向かいから聞こえる賑やかな声が耳に届いた。やっと来たか。
「さーちゃん、ごめん。遅くなっちゃった!」
マフラーを揺らしながら駆け寄ってくる澪夏。黒く艶のある長い髪が、何とも日本人形らしい。
「澪夏、遅い! あたしもう少しで凍死するとこだったじゃん」
あたしが飛びつくと、澪夏の後ろから藤クンの温かい笑い声が漏れる。
「はいはい、分かったから。星、見に行くよ」
澪夏はそう言って、どこかいつもと違うような気がする伊達メガネ男子のコートを引っ張った。
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