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歩きにくい石段を危なっかしく登って着いたのは、公園のすぐ近くにある小さな山の、こぢんまりとした神社の境内だった。
普段一切の運動をしないあたしが息を切らしていると、文化部員なのにまだピンピンしている澪夏は、ちょっとトイレ行ってくるね、先に二人だけで見てて、とだけ言い残して、あたし達の間からさっさと消えてしまった。
少し登っただけなのに、さっき居た公園よりずっと多い星があたし達を迎え入れる。町の喧騒も、ここでは聞こえない。こんな綺麗な星空、何年振りだろう――
あたしのすぐ隣で口を開いたのは、藤クンだった。
「なあ、ちょっとこっち来てくれ」
藤クンはそう言うと、あたしの手のひらを隠すように垂れたコートの袖を、ぎゅっと引っ張った。
「ちょっ、何? ……っ、倒れるじゃん」
あたしの文句も一切聞かず、藤クンの手はあたしを神社の裏手に導く。
下を向いた藤クンの顔は、ただ引きつっていて、薄い唇も、横一文字に結ばれている。長い前髪が垂れて、表情が読めない。――何が起こるんだろう?
家が武道の教室を開いていたから半ば強制的に通わされて、ある程度の護身術はかじっている。もしもの事があっても、たぶん大丈夫だ。
「ねぇ、何するの?」
あたしが頭の上に疑問符を浮かべながら危なっかしく引っ張られていると、藤クンは無愛想に「後で分かる」とだけ気持ちを押し殺すように言って、あたしの言葉を無理矢理遮った。
――藤クン、いつもはたいていイジられる側じゃなかったっけ? 何で今日に限って、こんなに口数少ないんだろ。学校でもそうだった。イジりへの反応が、微妙というか、キレが無いというか。
あたしは一生懸命思考を巡らせたが、どう頑張っても結論には辿り着かなかった。
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