第1章

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○●○ 季節は冬。 11月の東京は雪こそ降らないものの、コンクリートジャングルは身に染みるような寒さを放っていて、僕の身体はすっかり縮こまっていた。 「うわー……今日も寒いなぁ……」 学生服の上にコートを着込み、手袋をはめた僕は、玄関の引き戸を開けると同時に呟いた。 曇りの空が寒さを助長しているように見えて、余計に寒く感じる。 今日は一段と冷え込むって言ってたし、気温もそんなに上がらないんだろうなぁ……。 うちの学校、教室棟には暖房ついてないからな……一日コートを着込むことになるな。 「行ってきます」 家に向かって声を張ると、廊下に面した部屋から、手だけがにょきっと生えてきた。 ひらひらと揺れるそれには、見送りの言葉がついていた。 「いってらっしゃいな~」 全く……母さんってば、こたつから出られないって子供じゃあるまいし。 僕は微かに苦笑すると、引き戸を閉めて、歩き出した。
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