言葉のゴミ箱(起)

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次の日、さっそくゴミ箱を買いにいった。子ども連れしかいない中、大学生の俺がレジに並ぶのは恥ずかしかったが、『これは俺のじゃありませんよ~、知り合いにあげるんですよ~』という顔をして会計を済ませた。 走るように店を出て自転車に跨ると、最高速度で家に帰った。 自分の部屋に戻ると、息を調えるより先に袋を破った。 手触りからして、プラスチックでできているようだ。底より口のほうが円が大きい、見た目はコップそっくりなゴミ箱だ。ゴミ箱と言われなければわからない。 俺は一緒に袋に入っていた注意書きに目を通す。『飲み込むな』や『火に近づけるな』のような一般的なもののほかに、俺がおもちゃ屋で見た注意書きも印刷されている。折り紙ほどの注意書き紙は、こう終わっていた。 『このゴミ箱は、一度棄てたものを二度と拾うことができません。よく考えてお棄てください』 その通りだ。読みながら笑ってしまう。目に見えないものを棄てるのだから、戻すことは出来ない。 なんともよく出来たおもちゃじゃないか。ゴミ箱を持ってベッドに倒れ込んだ。 使用例にあったように、ゴミ箱の口を俺の口に合わせる。 そして棄てた。まずは、溜まっていた愚痴を。  
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