言葉のゴミ箱(起)

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それから、ゴミ箱に言葉を棄てるのが俺の日課になった。 毎日寝る前にゴミ箱に向かって言葉を棄てる。数秒で終わる日もあれば、数分かかる日もあった。 けど、むやみやたらに棄てたわけじゃない。『棄てたら二度とかえって来ない』。その言葉を毎回思い出して、慎重に言葉を選んだ。 やはりストレスのはけ口があると体が違う。なにかから解放されたように体が軽い。 それは他人から見てもわかるようだった。 「お前、最近明るくなったよ」 大学で一緒の学部の林が言った。 「わかる?」 「なんかあった?」 「ストレス発散方法を見つけたんだ」 俺にとっては今年一番のニュースだったのに、林の反応は「なんだ」と薄かった。 「てっきり、彼女でもできたのかと思っちゃった」 「あ―……残念。違う」 「ストレスがなくなったぐらいでそんなに明るくなったのかよ。お前どんだけストレスため込んでたんだ」 ストレスぐらい言うな、俺にとっては悩みの種だったんだ。笑いながら言うと林も笑った。 「でもまあ、良かったじゃん。明るいほうがいいよ」 「そう?」 「卑屈な性格よりはな」 「なにをわかりきったことを」  
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