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道路の脇に看板が立てられていた。
『ようこそ。恵みの町バラルへ』
その看板を横目で見ながら走り抜る。濃い霧が目前に迫っていた。町を覆い隠すような濃霧が異様な雰囲気を放つ。
男は自らを奮い起たすように、ますますエンジンを唸らせた。
猛々しく吼える。
「おおおおおおおおおお!」
優男が呆れたかのように笑う。
濃霧を突っ切った。
町がその姿の全容を表す。恵みの町というだけあって緑豊かな木々の街路樹が男達を迎え入れる。
洗練され、統一された町並みがモダンさと清潔感を普段だったら醸し出していた事だろう。残念ながら今は濃霧が太陽を遮り、昼だというのに陽の光りは淡くしか発光されず、陰鬱な雰囲気を醸し出すだけだった。
男は唸らせていたエンジンを宥めるように速度を緩めると、静かに止めた。
そこにありしは静寂。
「へえ。さすがに恵みの町だね」
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