76人が本棚に入れています
本棚に追加
「何なんだ? そりゃあ」
男は普段から人相が悪いのだろう。特に機嫌が悪そうではないが、独特な威圧感を放っている。
「知らないの? 忽然と人が居なくなるって事だよ」
優男は何でもないような顔をして言う。優男のその言葉で男はますます顔を激しく歪める。
「知らねえよ」
男のセリフに優男がどこを見るわけでもなく言う。
「『ニッポン』の言葉さ」
男は眉を潜めると無言で次々に無人の車のドアを乱暴に開けていく。
優男はその光景を横目に、ただバイクに寄りかかる。シールドを上げ、淡い空を仰いだ。
男は眉間に皺を寄せる。無人の車はどれも鍵がほとんど残ったままに放置されていた。それはメイン通りの先の方まで永遠に連なっているように見える。
助手席に指を這わす。念の為に鼻で嗅いだ。
目を細める。
「……血の匂いだな」
最初のコメントを投稿しよう!