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「カット!!」
監督の勇ましい声と共に、カチンコが二回打たれる。
カメラは止まり、役者達がはけていく。
そこは映画の街ハリウッド。ウエスタン風の街並みに、馬や羊が歩き回る光景は不思議な世界に迷い込んだように見える。
誰もが忙しく動き回る中、異彩を放つ車が一つ。
それは一見すると、大きな撮影器具を運ぶトラックにしかみえない。しかし、その荷台を占めるのは、水辺に砂浜を収めた強化プラスチックの箱。
その中のパラソルの下で、ラフなシャツ姿のクライムがくつろいでいる。
彼の事務所が出資している映画の撮影で、様子を見に来たようだが、どうみても遊びに来たようにしか見えない。
その傍らには、美しい肢体に長い黒髪の美女。しかしその正体は、髪を染め、カラーコンタクトを装着したキャット。
「どうだ、楽しんでいるかエリー?」
クライムはいやらしい目で、キャットの胸を眺めながら、その腰を引き寄せる。
「ええ。でも、このままじゃ日に焼けてしまうわ」
甘い声を出しながら、キャットは積極的に身体をくっつけていく。
そこへ着信を告げ、携帯電話のサインが光る。楽しみを邪魔され、クライムは眉をしかめながら手に取る。
チラリとキャットの存在を気にしたようだが、その思いは彼女の柔らかい肌の感触に負け、あっさりと消えてしまう。
「……あぁ、俺だ。どうした?」
キャットはさらに身体を寄せ、クライムの携帯電話に聞き耳をたてる。
『問題が発生しました。ドクターアランが、研究所から姿を消しました』
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