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「……ノーネームは、どうなった?」
『おそらく、ドクターアランが持ち去ったものかと……』
電話の向こうで、僅かに声が震える。
「それをお前達は、黙って見逃したというのか」
クライムの声は、急に低くなる。静かな怒りが漂っているようだ。
『い、いえ……そういうわけでは……ないのですが……』
「言い訳は無用だ。すぐにアランを見つけろ。もし、言うことを聞かないようなら、フィルムだけ回収すればいい。分かったな」
会話の断片を聞きながらキャットは、その言葉を記憶した。
ノーネームというフィルム。もしかすると、それがターゲットなのかもしれない。大和の調査でも、名前の無いフィルムだと記されていた。
荒々しく携帯電話を切ると、クライムは葉巻をくわえる。キャットは、微笑を浮かべ素早く火を付ける。その動きは、かなり手馴れているようだ。
電話の内容について聞きたいところだが、今はかなり機嫌が悪いようだ。情報を引き出すのは、もう少し時間を置いたほうがいいだろうと。今しばし、キャットはエリーでいることにした。
久我大和が立てた計画は、単純明快なもの。
まずはターゲットを所有しているというクライムに近づき、フィルムの情報収集。
その役目は、もっとも近くに潜入しやすいキャットに任せた。現に彼女は、クライムの秘書という位置に難なく潜り込み見事に誘惑している。
晏慈は、キャットの正体が知られたときの護衛、後方支援といったとこだ。
潜入先は、撮影所内の建設現場。
何も考えずに体を動かす場所がいいだろうという、大和の判断で送り込まれた。
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